7話 もしかして、俺は特異体質なのかもしれない


 ゆっくりと、意識が浮上してきた。
 確か……俺は死んだはず。それなのにまた、生きている。
 場所は、変わっていないようだった。屋根裏、うつ伏せで寝転がっているままだった。

 変わったのは、目の前に穴が開いていて、そこから光が差し込んできていることか。さらに背後の天井から外の光りが線状に差し込んでいて、真っ暗だった天井裏がさらに見づらくなっていた。

 物音がしないか、じっと耳をすませた。
 下の部屋に誰もいないのか、何も物音がしない。
 しばらくしても何も変わりそうに無かったので、ゆっくりと天板をずらして階下に降り立った。



「え……どういうことだ……? この二つの灰の山はなんだ?」
 衣装がひしめくクローゼットに降り立ち、そっと部屋の中を伺うと、そこには誰もいなかった。
 代わりに、黒い灰の山が二つ、部屋の中にできていた。

 さっき喋っていたのが、男二人だったか。とすると、ここにある灰は男達のなれの果てと言うことなのか?
 家の外に目を向けると、かなり日が傾いている感じだった。それなりに時間が経過しているようだ。ふと庭の草木が少し遠くまで、真っ白に脱色されていることに気が付いた。

 これはつまり、そういうことなのか?

 確か、攫われた先の森も、同じように脱色されていた。
 あの時も、俺がミサイルに撃ち滅ぼされて、何故か生きていた後の出来事だったと記憶している。
 それを考えると、この色が失われる現象は、俺が原因の可能性が高い。
 とはいえ、その程度しか理解できないけれど。そもそも死んだ自覚はあったのに、生きている。
 これはつまり、蘇っている可能性が高いのかも知れない。
 とんだ特異体質だな。

「服は……今回は、お腹に穴が開いたただけで済んだのか」
 クローゼットにはたくさんの衣服が掛けられていたので、上に来ているシャツを新しいものに着替えた。
 待って、何でだろう。なんだかシャツの伸縮性が悪い気がする。色も心なしか抜けている。
 結局、気味が悪かったので、お腹の部分に穴が開いたシャツにもう一度着替え直した。

 裸になった時に、自分の胸元に埋まっている緑色の石が、少しくすんでいることに気が付いた。昨日……だよな、疲れて寝る前には普通に色鮮やかな緑だったはずだ。
 ついでに、森でミサイルを撃ち込まれた後も、綺麗な緑色をしていたはず。
 とはいえ特に体調が悪いわけでもない。ただ何となく、色が違うから気味が悪い程度の物なのだけど……。

「どうやっても、独り言が増えるのは仕方ないことなのかもな」
 そう考えながら、慎重に階段を降りていく。
 ちなみに靴、最高。靴下も履けたから、違和感が全くない。多少の瓦礫を踏んでも、靴裏でジャリジャリ言うだけで全く痛くない。

 一階の廊下を進み、玄関に辿り着いた。やっぱり、散らばっている靴の色がかなり薄い。自分が今履いている靴は綺麗なままで、体から離れていたものに関しては自分の死、それに関わる蘇りの際に何か大切な物が抜けたように見える。
 もしかしたら、この胸にある石が何かのエネルギーを吸い取ったのだろうか?
 あれから何度も石に触れているけれど、硬い石の感触以外に何も分からない。

 結局、この意味不明な緑色の石は、隠しながら生きていくしかないのかもしれない。


 外に出ると、男達が乗ってきた車があった。
 経の大きいタイヤが四つ。荷台が少し狭い、いわゆるピックアップトラックというタイプの車だ。例に漏れず、知識が降ってきて知っていた。
 荷台を覗くと、色々な物が乗せられていたけれど、どれもが何だか色彩を欠いていた。色の抜けた林檎なんて、どう見てもマズそうだ。
 この感じは旅人だったのだろうか、明らかに濡れたら困る物にだけ幌のような物が駆けられていた。

 室内を覗くと、五人乗りの右ハンドル車だった。
 動力源は分からないけれど、このタイプなら相変わらず降ってくる謎知識によると、簡単に運転できそうだった。
 見ることによって、初めて知っていることになるんだな。いまだに、この世界もどんな世界か知らないし、この街がどうしてここまで破壊されているのか知識として持ち合わせていない。

 運転席に乗ると、鍵が刺しっぱなしだった。
 ブレーキペダルを踏みながらキーを回す。案の定、エンジンがかかる様子がなかった。メーターパネルも点灯しないから、どうもエネルギーが不足しているようだ。

 ボンネットを開けて、エンジンルームを覗いてみる。
 うん、これは魔石駆動型のエンジンだな。
 やっぱり見ると、知っている。不思議な感覚。
 横にあった箱を開けると、色が抜けた魔石が中に転がっていた。完全に魔力切れで動かないだけに見える。

 魔石は……一般的な魔獣が持っているのか。都市部にはいないから、少し離れた森の中か、山岳地帯にまで足を伸ばすしかないのかもしれない。
 あと他には、魔族も体内に持っていると……いや、魔族の魔石なんて無理でしょう。そもそも、魔族は無理。さすがに殺人者にはなりたくない。
 ただできれば、ここでこの車は確保しておきたい。

 ふと、手が空になった魔石を持ち上げていた。
 このとき俺は、思考の渦に飲まれていて、自分の体が勝手に動いていることに気がついていなかった。
 逆の手でシャツをまくり上げて、胸元にある石に空の魔石を接触させた。

 くぐっと、何かエネルギーが抜けていく感覚に襲われて、意識が自分の手に向いた。

「えっ、俺なにやってんの?」
 胸の石に触れた魔石が、じんわりと発光を始めた。
 思考が追いつかずにそのままでいると、やがて魔石が赤く染まったところで、エネルギーが抜けていく感覚が止まった。思わず赤く染まった魔石を胸元から離した。
 胸元の石は、相変わらずくすんではいたものの、緑色が心なしか明るめの緑に変わったように見えた。

「……どういう状態だ? 俺がこの魔石を復活させた……という状態なんだよな。
 いや待て、おかしいだろう。俺は人間だよな。何で魔石が回復するのよ?」
 正直、思考がまとまらない。
 魔石は、使えるようになったのだと思う。発光は止まって、赤く澄み通っている。手に持っていてもエネルギーの有無を感じることはできない。でも間違いなく、正常に使える魔石だと感じた。

 荷台から小袋を持ってきて、箱の中に残っていた空の魔石を入れた。そして、いま赤く復活した魔石を箱の中に入れて、ボンネットを閉めた。
 逸る気持ちを抑えながら運転席に乗って鍵を回すと、メーターが点灯してエンジンが振動とともに動き始めた。

「やった。動いた。これで移動することができる」
 メーター内のエネルギー残量は半分。これがどれくらいの距離を移動できるのか分からないけれど……あ、五百キロね。横に書いてあった。
 ここがどこだか理解していないので、五百キロでどこまで移動できるのか分からないけれど、何とか移動手段が確保できた。

 運転の仕方は、相変わらず知っている。
 車内には地図はなかったし、あとは道があるのならその道なりに走って行くしかないのか。

 色が抜けて味のしない林檎を囓りながら、道に沿って車を発進させた。