おもむろに椅子から立ち上がった桃華は、人差し指をビシッとアークに向ける。
「いいかしら。何を勘違いしているか知らないけれど、私たちはたまたまこの世界に迷い込んだ一般人よ。あんな何でもできるような、プレイヤーとやらと一緒にしないでほしいわ」
「えっ? ええっ?」
どうやらアークは、さらに混乱し始めたみたいで、目を白黒させている。
正直、桃華に対してはツッコミどころが多いんだけれど、確かにここは迷い込んだ世界。キャラクリエイトしてこの世界に降り立ったわけではないため、元々ナナナシアで得た能力以上のものは得ていないんだよな。
もっとも、キャラクリエイトでどういった能力が得られるのか分かっていないから、正直なところ比べようがないんだけど。
「あの……それでしたら、私の権限で能力を追加で付与すれば、現地の状況がどんな状況であれ対応可能だと予測されます。ですから――」
「それはそもそも無理じゃないかしら。あなた確か、ダンジョンコアとの繋がりが切れたと言っていなかった?」
「……あっ」
桃華の指摘に、アークは再び固まった。
「この世界がどんな世界なのか理解しているわけじゃないけれど、少なくともすぐ上の存在との繋がりが途絶えているなら、本源に関与する権限も喪失しているはずなのよ。だとしたら、どうやって能力を付与することができるというのかしら」
「そ、それは……」
「それに、今までの話からすると問題が起きた原因が一切わかっていないのでしょう? そんな不確かな状態で、私たちが言ったところでどうすることも出来にないわよ」
桃華の言っていることは正しい。ただなぁ、本人は気づいていないみたいだけれど、きっと世界がおかしくなったのってあの時なんだよな。
軽く溜息をつくと、篤紫は桃華の左腕を軽く引っ張った。
「あのな……ちょっと、桃華。大事なことだから聞いてくれないか」
「少し待ってて篤紫さん。今きっと、とってもいいこと言っているところなの。邪魔しないでほしいわ」
「いやな、世界をおかしくしたのって、桃華だと思うんだ」
「えっ……お母様が?」
それまで静かに話を聞いていたヒスイが、びっくりして声を上げる。いや待って、確かヒスイも桃華が暴走していたの一緒に見ていたよね?
「……ちょっと聞き捨てならないわね。どういうことかしら?」
さすがに自分のせいだと言われてカチンと来たのか、桃華が体ごと篤紫の方に向いた。眉間にシワを寄せて、ちょっと怒っているのか両手を越しに当てている。頬を膨らませているのが、何だかちょっと可愛らしいんだけど。
「さっき確か、そこの木を叩いたりしていろいろ調べていたよな?」
「ええ。調べたような気がするわ」
「その時に石を投げたのは覚えている?」
「もちろんよ。私の得意技が塞がれて、ちょっとムシャクシャしていたのよ」
「あれな、壊れちゃいけない壁なんだ」
「……えっ? そうなの?」
桃華が顔をアークに向けると、驚いた顔のまま首を何度も縦に振っている。
「それでな、建物だけじゃなくてその先にあった真っ暗な空間に突き抜けていかなかった?」
「え、ええ。確かに遠くに飛んでいったみたいね」
「ここはオーストラリアにある地方サーバだ。恐らくだけどあそこって、この世界を管理しているメインサーバに繋がっていると思うんだよ。さっきの桃華の話で言えば、本源ってところか」
「……」
「ちなみに、投げた石ってその辺で拾った石?」
「い、いいえ。私のき、キャリーバッグの中に収納してあったものよ……」
「つまり異世界の異物だよな。いわゆる未知の物質に本源を攻撃されて、そこにあった重要なものが破壊されたわけだ。まあ、とっさに止めなかった俺も悪かったんだけど」
さすがに気がついたみたいで、桃華の顔から血の気が引いていく。
「い、今の話って……ほほ、ほ、本当なのです……か?」
「ああ。ゴメンなアークさん。世界をおかしくした原因って、間違いなく俺達だ。それに、アークさんを存在進化させたのも、俺たちのしでかしたことだな」
「え、存在進化って、なんですか?」
「ステータスオープン、使えるようになっているんじゃないか?」
要領を得ないようだったので、試しにステータスオープンの合言葉を使ってみた。目の前にステータスボードが浮かんだことで、まだあのゲームの世界『マジカルテラ・オンライン』が有効なことが確認できた。
問題はその先、転移ゲートをくぐった向こう側がどうなっているか……なんだよなあ。
「篤紫さん……ごめんなさい……」
「多分大丈夫だから、そんなに気に病まなくていいよ。世界が崩壊していないんだから、まだなんとかなるはずだ」