13話 暴走生活魔法使い


「ねえ、オルフ?」
『ふむ……そう言えば、お嬢がよく見ていたアニメに、似たような名前の雪だるまがいたな。我は毛だるまだが。
 ところでどうしたのだ? お嬢…』
「夏梛よ」
『ん?』
 抱きかかえていたオルフェナを顔の正面に持ち上げて、夏梛は抗議する。

「夏梛って呼んでくれなきゃダメ。
 オルフがあたしのこと『夏梛』って呼ぶまで、絶対に返事しないんだからね」
『では、夏梛おじょ「それもダメっ!」……むぅ、なかなか言うようになっったではないか』
「オルフは家族なんだから、みんなのことも名前で呼ばないとダメなの!」
『わかったわかった。では、夏梛と呼ぶことにするぞ。
 ところで夏梛、我に何か聞きたいことがあったのではないか?』

 裏庭に面した縁側で、夏梛とオルフェナは座っていた。
 タカヒロさんに聞いた話だと、その昔、裏庭は春から秋にかけては畑として使用していたそうだ。今は雪に埋もれているので、一面に広い雪原に見える。
 一晩明けた今日も晴れて、照りつける日差しがぽかぽかと暖かい。

「あのね、どうしておとうさんとおかあさんが暴走しているのかな、って思って」
『我もあそこまでは想定しておらぬよ。魔法が使えることがよほど嬉しかったのではないか?
 使っているのは生活魔法のようだが』
「そんなに嬉しかったのかなぁ、でも子どもみたいだよ」

 視線の先、雪の上で篤紫と桃華が向かい合って対峙していた。
 二人ともニヒルな笑みを浮かべて、それぞれ右手にはライターの火程度の火種を浮かべて、左手からは水道の蛇口を軽くひねった程度の水を手指の間から地面に垂れ流ししていた。
「「ふふふふふっっ……」」
 声にまで出ているよ。見ているこっちが恥ずかしい。


「ねぇオルフ、そもそも生活魔法ってなんなの?」
『それは難しい質問だな。
 そうだな……夏梛ならば、魔法はイメージ次第で何でも出来るのは知っておるな。もちろん魔術のように詠唱する必要もない。
 魔法と魔術は、おおざっぱに見て同じ現象を起こせるが、同じ現象を起こすのに必要な魔力量が違うのだよ』
 オルフェナは鼻先に魔法で小さな火を作り出した。それを大きくしたり小さくしたりする。

「それと生活魔法とどうつながるの?」
『この火種を作り出すのに消費する魔力を、魔術が1だとすると、魔法だと100使う必要があるのだよ。もちろん魔法はさらに魔力を注ぎ込めば火を大きくしたり、圧縮して高温の火種にも出来る。
 だが、さすがに普段の生活で大量の魔力を使っていたら、作業が捗らないだろう?』
「うん、確かに落ち葉に火を付けるのに強い火はいらないよね」
『さらに、魔道具としての生活魔術では消費魔力が100分の1で発動するように作られておる。
 魔道具に魔石を付けても、消費が少ないおかげで長い間使えることになるのだよ。明かりの魔道具が、魔石を利用した代表的な生活魔術だろう。
 そして、魔道具の生活魔術に慣れた後で、魔法としての生活魔法を使うことで、少ない魔力で効率よく生活魔法が使えるのだよ。
 当然、魔法としては威力が弱すぎるがな。強弱の制御もできぬ』
「へぇ、そうなんだ。
 それでこの間、光の玉をいっぱい作ったときにカレラちゃんがびっくりしてたんだね」


 篤紫と桃華はその間も生活魔法の応酬を続けていた。
 今度はしゃがんだ状態で、右手を地面にかざしてバケツほどの穴を空けて、さらに上にかざした左手に光の玉を浮かべる。
 ニヤリと笑い合うと、魔法を解除する。そして二人とも横に転がって、泥にぬかるんだ地面で体を汚した。服も体も泥だらけ……子どもでもやらないよ。
 起き上がって同時に右手を上げる。あっという間に汚れが落ちた。浄化の魔法を使ったのかな?
 さらに左手を頭にかざして何かの魔法を使う。髪の毛が風に揺れてはためいた。これは、ああ風の魔法、ね……。
「ふふ。篤紫さん、さすがね」
「ははっ。桃華も、なかなかの腕前だな」
 えぇ……。二人のどや顔に、夏梛は大きなため息をついた。


「じゃあ、生活魔法の元は生活魔術ってこと?」
『そういうことだな。
 生活魔術の魔道具を使うことで、まずその感覚を身体に慣らせる。繰り返し使った結果身体に染みつき、最低限のイメージで生活魔法が使えるようになるということだ。
 だから、篤紫と桃華には生活魔法のスキルがあるのだよ』
「あ、オルフ、あたし生活魔法のスキルないよ」
『夏梛はその代わりに、魔力制御があっただろう。魔力制御があれば逆に生活魔法が必要ないのだよ。
 もっとも、街中で生活していくだけならば生活魔法か、魔道具の生活魔術で十分なのだがな』
「そっか、普段の生活に高度な魔法は必要ないもんね」
 


 ゴゴゴゴ………。
 不気味な音とともに、地面が揺れ始めた。
「オルフ、地震だよ。けっこう大きいんじゃないかな」
『ふむ、震度4と言ったところか。座っていると体感震度は上がるからな。
 ここのところ大きな地震が多い感じだな。前の日本にいるときのようにネットワークがないから、どこが震源地か判らないのが怖いが』

 篤紫と桃華が、再びぬかるみで転んで泥まみれになっていた。顔を見合わせて笑いながら、浄化の魔法を使っていた。
 空を見上げると、変な形の雲が浮かんでいる。地震雲かな?
 揺れはしばらくすると収まった。

 結局、篤紫と桃華は生活魔法が使えるようになっただけのようだ。
 オルフェナの話だと、電気がない世界だから最低限、生活魔法が使えるようになって初めて生活できるのだとか。

 かなは胸をなで下ろした。
 そういう意味では、本当に最低ラインが達成できたんだね。
 でも白崎家はみんな魔力を膨大量保有しているから、しっかりと魔力制御ができるようになった方がいいよね。また時間があるときに、手をつないだ魔力を循環させて、制御の感覚を覚えて貰った方がいいかも。
 嬉しそうに魔法談議をしている篤紫と桃華を見ながら、夏梛は思いを新たにした。




 お昼を食べた後、夏梛とオルフェナはカレラちゃんに呼ばれて遊びに出かけた。
 篤紫と桃華は、再び魔法の練習を始めた。
 半日の練習でおそらく生活魔法はしっかり使えるようになったはず。でもそれ以上がうまくいかなかった。

「結局のところ、生活魔法って魔法なのか?」
「魔法には違いないみたいだけれど、話に聞いていた魔法とは何かが違う気がするわ」
「とするとやはりあれをやらないと駄目なのか?」
「そうね、間違いないわね」
「よし」

 二人は縁側に向かい合って座った。そして両手をつなぐ。
「お互いに右手から流す感じでいいな?」
「ええ、左手で受けて右手から押し出す感じね 」
目をつむって、イメージする。右手で渡し、左手で受け取る。

 バチッ! バチバチバチ!!

 魔力が流れ出し、同時に紫電が二人の間に弾ける。
 目を開けると、お互いの瞳が真っ赤に染まっていた。心地よい魔力が二人の間を駆け巡っている。
「よし、覚醒したぞ」
「くすくす、私も篤紫さんと同じ中二病になっちゃったのかしら?」
「お……おい、人を子ども扱いするなよ」
「いつまでも少年の心を持っている篤紫さんが、私は好きなのよ」
「なっ……あ、うん。俺も桃華が好きだよ」
 二人して真っ赤になった。

 弾ける紫電は、自然と二人の間に集まっていく。
 徐々に紫色の結晶に成長していき、拳大まで大きくなったところで紫電が霧散した。
 残ったのは、まん丸い紫水晶のような石だった。
「愛の結晶……か」
「くすくす。真顔で言わないでよ、恥ずかしいわ」
「ぐはぁ………」
 そして二人は顔を見合わせて笑った。

 二人の生活魔法は、いつの間にか魔力統制に変わっていたが、数ヶ月先まで本人たちが気づくことはなかった。