ep22 わたしは初代として就任することにした。女王になった


「新しい国の名前は、シーオマツモ王国にします」
 麗奈のその宣言で、国としての初めての会議が始まった。

 ガンドゥン帝国と草原で戦ってから、早くも一ヶ月が経とうとしていた。
 正直全員が着の身着のままで移動してきたような状態だったから、最初の取り掛かりが凄く大変だったんだよね。

 まず広大な穀倉地帯が城の北側にあることもあって、住居の振り分けは城に近い場所から行うことになった。
 その住居にしても、ダンジョン形成で建物だけ作ってあったため、ほぼ全てのものが不足している状態だった。家具、衣料品、生活用品だけでなく、食料も何もないのには、さすがの麗奈も笑うしかなかった。

 そのため、トラック型の車をジュカイの街に何回も往復する羽目になった。
 いや、正直言って大変だったよ。
 車が走りやすい道を作ったとは言え、片道だけで三時間かかるのよね。
 幸いなことに、あれから一度もガンドゥン帝国の軍隊に出会うことはなかった。代わりに道を作る時に、無理に魔獣の生息地域を横切ったため、けっこうな頻度で魔獣に襲われた。
 それを倒しながら、家具を運び、生活用品を運び、たまに気が変わったジュカイの街の住民をシーオマツモ王国に運んだりもした。もちろん食料も運んだし、途中で倒した魔物も食肉として捌いて処理し、シーオマツモ王国の食卓に並んだりもした。
 さすがに空を飛べるようになっても、物の運搬はできなかった。おかげで、車の運転ができるようになったよ。やったね。

 そんなわけで、あっという間の一ヶ月だったかな。


 みんなで生活を初めて一番気を使っていたのが、四肢のどこかを欠損している魔族と、フィレンメール王国からの避難民してきた人間族との関係だった。基本的に魔族と人間族は相容れない。古くからの慣習もあることから、かなり苦労するのではないかと思っていた。
 ところがそんな心配をよそに、フィレンメール王国からの避難民と、ジュカイの街からの避難民は一切争うことなく、仲良く協力して生活をしてくれている。

 フィレンメール王国のみんなが、学者や技術者、あるいは研究者だったことが影響していたのだと思う。
 地球でもそうだったけど、学者や技術者は実力至上主義の人が多い。種族よりも能力を重視するため、こういう状況だと非常に助かるんだよね。
 人間族の作業を、魔族が魔法で補佐をする。そんな関係が自然にできあがっていた。フィレンメール王国が魔族にも寛容な国だったというのも、大きかったのかもしれない。


「えーっと、初代女王を拝命した、メルフェレアーナ・メナルアです。
 予定としてはお飾りの女王だから、実際の執務はアッシュとかレイフォールとかにお任せなんだけどね」
「メナルア様。最初からそれじゃ、駄目じゃないですか」
 麗奈はそれだけ告げると、大きく行きを吐いた。
 アッシュにさっそく呆れられちゃったけど、そもそも女王なんて柄じゃないんだよね。まだ十七才だから、地球にいたらまだ高校生。本当に人の上に立てるのか心配なんだよね。

 会議室には、三十人程の魔族と人間族が座っている。
 アッシュの他にはロイドを始めとした、今、新生シーオマツモ王国にいる悪魔族全員が着席している。
 フィレンメール王国の人たちはレイフォール以下、フィレンメール王国で要職に就いていた人が十名程、会議に参加していた。


「メルフェレアーナさんも、年齢で言えばもう十分に大人ですからね。あとはゆっくり慣れてもらえればいいですよ」
 レイフォールは、少しアッシュを宥めるように柔らかい笑顔で言葉を発した。隣にアッシュがしきりに頷いている。一ヶ月の間、一緒に行動する多かったのだけれど、二人はかなり上手く言っているように見えた。
 そんなレイフォールは、二十一歳。国は兄が継ぐことが決まっていたため、気楽に他の技術者に混じって発明三昧の日々を送っていたようだ


 あの日、占領されていたフィレンメール王国を、地中深く全て埋没させた話をしたとき、レイフォールは一瞬驚いた顔をした。その後すぐに、深く頭を下げてきた。
 そうして、滅亡したフィレンメール王国の、ことの顛末を話してくれた。
 命からがら。
 語られた話は、まさにその言葉がぴったりだった。

 その時レイフォールたちは、車両の試運転のために郊外にいた。
 ちょうど早朝からのテストを終えて、撤収の準備をしている時に、ガンドゥン帝国の魔素消滅爆弾が王城に打ち込まれるのを見たそうだ。
 レイフォールの目の前。たまたま魔素消滅爆弾の範囲内にいた部下が、一瞬で燃え上がって命を落とした。その時点で王都にはもう、誰も生きている者はいない……レイフォールはそう理解したそうだ。
 王子としてそのとき取れる最善の行動は、生き残った民を率いて逃げることだけだった。

 魔素消滅爆弾の範囲に注意しながら、郊外にあった研究施設を全て破壊。生き残った研究員全員を無事だった車両に分乗させて、同盟国であるデサント王国に向かった。
 その途中でガンドゥン帝国から砲撃を受けていた、ジュカイの街の後続部隊に出会ったらしい。


「この世界って、十五歳で成人なんだっけ? そっか、わたしはもう大人なんだね。
 わかった、何となくだけど頑張ってみるね」
「そう肩肘張らなくてもいいわよ。女王に就任したと言っても、まだそれほど国民は多くないわ。私たちみたいな政務経験者や、歳くった先輩の大人がたくさんいるんだから、みんなで手を取り合って、国を作っていけばいいのよ。
 ロイドなんて見てご覧なさい、未だに家庭はおろか彼女だっていないのよ?」
「お、お母さん……それは言わないでくれよ……」
 項垂れたロイドの姿に、会議室は笑いの渦に包まれた。さすがのロイドも、母親であるソレイユには敵わないらしい。
 みんなも何だか緊張していたのだと思う。ソレイユの言葉で、空気が柔らかくなった気がした。
 麗奈が全員の顔を見回すと、目が合うたびにみんな笑顔で頷いてくれた。
 
「ありがとう。みんなで協力して、いい国にしていければいいかなと思う。
 しばらくはこのお城にいると思うから、何かあったら気軽に声をかけてくれると嬉しいかな」
 こうして、麗奈の人生初となる女王就任式は、つつがなく終わった。



「さて、最初の問題はここの部屋ね……」
 簡単な就任式が終わって、麗奈は城のエントランスにいた。
 麗奈が作った城は、城壁と国壁を含めたダンジョンの一部になっている。
 そのダンジョンのコアとなっている魔晶石は、もともとメナルア邸にあった魔晶石で、麗奈が魔力を込めたことで変質した魔晶石でもある。
 あの時、魔晶石自体が違う物に変わっていたのか、麗奈がメナルア邸で一年と少し過ごしただけで、外の世界では千五百年経過していた。完全に浦島太郎状態で、さすがの麗奈も呆気にとられたのを覚えている。
 目の前にある部屋には、その時間経過の特性だけ切り取って封入隔離してある。

「でもあの時、障壁に使われていた魔晶石に魔力を注いだだけなのに、何で時間の流れが違っちゃったのかな」
 部屋の扉を開けたはいいものの、中の空間における時間の流れが分からないので、さすがに入る勇気が無かった。
 特性が変わっていないとすれば、時間の流れが千五百分の一になってしまう。
 これは単純に部屋の中で一分過ごして出てくると、千五百分過ぎる。つまり二時間半経過する計算になると思う。

 もし、この特性をひっくり返すことが出来れば、色々と使い道があるんだけどな。

「メルフェレアーナさん、どうかしましたか?」
「あ、ルルネさん。この部屋だけ時間の流れが違うんだけど、どうにかならないかなって思って」
 通りかかったのは、フィレンメール王国からきた金髪碧眼の女性だった。ちょうどダンジョンコアルームから上がってきた所のようだ。
 確か、魔術の研究をしているって自己紹介があった気がする。

 魔術はけっこう重要な技術で、魔石のエネルギーを車のエンジンに使えるように変換する役割を担っているって聞いたことがある。悪魔族のみんなも魔術が得意で、一度魔術文字を見せて貰ったことがある。そこに描いてあった文字は、なんと麗奈の知っている英語だった。
 麗奈は、英語が苦手だ。
 つまり読んだところで、何が書いてあるのか分からなかった。

「あら、それなら魔術で現象を変えてあげればいいわよ。
 多少条件を変える程度であれば、いま解明できている魔術構文で操作が可能なはずよ。詳しく説明して貰ってもいいかしら?」
「えっとね、最初から説明した方がいいんだよね――」

 こうして、思わぬ所から助っ人が入ったことにより、時間の流れがおかしい部屋が国の中でも重要な部屋に変わることになる。
 なんて、さすがにこのときは思わなかったな。