三話 事故に巻き込まれて、私は気を失ったわ。


 鮮やかだった街路樹の緑が色を失った。
 建物も、まだ作りかけの看板でさえ、すべての物の色が抜けていって、かろうじて残った黒によって視界がモノクロに変わる。

 風も、光も止まった。
 一切の音が消えた。完全な静寂。

 時間が停まるって、こういう状態なのかしら――何だか他人事のような事を考えていたら、ピコンと、場違いな音が聞こえた。それも、耳に聞こえたんじゃなくて頭の中に直接聞こえたような、そんな感じの。

『ダンジョンマスターが確認されました。ダンジョン起動条件を達成したため、起動処理に入ります』
 唐突に脳内に聞こえてきたアナウンスに、思わず息を呑んだ。

『……起動処理失敗。管理端末がありません。
 管理端末確保のために緊急処理に移行、魂樹生成を開始します。
 魂樹化可能な付近の該当端末を検索……手提げ鞄内に高機能携帯端末を確認しました。魂樹化を開始します……成功しました』
 事態が飲み込めずにいると、何かが状況を勝手に進めている感じで、アナウンスの直後にバッグの中で携帯電話が、震えた。何でかな、震えたことがわかった。

 何だか焦る。
 

 周りの世界は停まったままなのに、目に乾きを感じて、耳に音が、鼻に薫りが、唇に潤いが、そしてじんわりと首に感覚が戻ってくる。
 恐る恐る首を回すと、視界すべてがモノクロの世界で、相変わらず異常な事態だってことはわかった。私が徐々に動けるようになっていく。

 やがて体にも感覚が戻って、無意識のうちに肺の中の空気を吐いていて、苦しくなって慌てて息を吸った。
 息を……私、何を吸ったのかしら。多分酸素……なのよね。何かを呼吸しているけれど、何を呼吸しているのかわからない違和感。

『ダンジョン構築のため、魂樹経由でナナナシア・コアにアクセスします……接続失敗。
 異常事態が発生しました、ナナナシア・コアが存在していません』
 バッグの中の携帯電話が、何度も、何度も震えている。確認できないけれど、きっと何かが画面に表示されている

『主権限獲得のため、魂地モードから魂儀モードに移行……成功しました。
 個体名、葛城ミモザのダンジョンコアを起点にダンジョンを構成します……成功しました』
 ……ダンジョン?
 さっきから妙に記憶に引っかかる。
 ダンジョン、よく考えてみればその言葉に覚えがある。

 これは私の記憶?
 それとも、私に前世があったとして、その前世の記憶かしら?

 頭痛が、突然頭を襲った刺すような痛みに眉間にシワが寄った。
 頭の中で何かが割れて、中から溢れ出てきた『記憶』がゆっくりと浸透していく。

 私は、ダンジョンコアだった。
 私はダンジョンコアだ。
 私は……葛城ミモザだ。

 理解した。あの夢で見た私は、私。
 葛城ミモザと同時に、あそこにいたミモザでもあるのよ。

 今じゃない時間で、イブキと

「だから、どうしたって訳でもないのよね。って……あら、声が出せるわ」
 意識したら、目も動かせるようになっていた。顔に感覚が戻ってきている。