53話 都市復興


 朝日が昇った。
 コマイナの中から、朝日に照らされるシーオマツモ王国を見ていた。
 静まりかえった室内に、つばを飲み込む音が、やけに大きく聞こえる。

 シーオマツモ王国のダンジョン化した国壁から、ドーム状に障壁を展開してある。障壁の構造と規模は、以前と全く一緒らしい。
 障壁のパワーソースがソウルコアだけだった時には、午前中の消滅光線に対して罅が入る程度で耐えたものの、午後の消滅光線で障壁が砕け散ったという。

「あと、三時間ですね――」
 タカヒロさんが妖精コマイナの部屋にある画面を見ながら呟いた。
 全員が固唾をのんで見守っていた。

 夜明け前には障壁の展開も終わり、全員でコマイナに避難していた。
 進化した、シーオマツモ王国のキャッスルコアには意思はないけど、独立して障壁の維持ができるようになった。それは格段の進化だった。



 全員が椅子に座って、モニターを見つめていた。
 桃華が入れたお茶は、もうすでに冷たくなっていた。

 空気が重いな……そうだ。

「ところで、なんでダンジョン壁って壊れないんだ?」
 篤紫としても、そこはどうやっても理解できない部分だった。地球にはそもそもダンジョンが存在していなかったし。
 もちろん、質問先は物知りオルフェナ先生だ。

『そうだな、簡単に言うならば、ダンジョンは星の意思だな』
「ぜんぜん意味が分かりません」
『ふむ、そうだろうな。
 ダンジョンコアは、我々魔族の体内にある、魔力器官と同じような物だ。
 我々が魔法を使うことで、魔力を星に還元しているのだが、その魔力を星が使用するための素が、ダンジョンコアと呼んでいる魔原石なのだよ。

 普段ならば、そこから消耗資源や魔獣が自然に産まれるだけだ。
 ところが知恵がある者は、その魔原石に干渉することができる。その結果生み出されるのが、ダンジョンなのだよ。
 ちなみにコマイナダンジョンは、レアーナがイメージして作ったダンジョンだな』

 でも、それが何故、破壊不能オブジェになるのだろうか?
 相変わらず、オルフェナはいろいろなことを知っているな。……て、我々って言うことは、オルフェナって魔族なのか?
  そうか魔族だったのか、知らなかった。

「それだと、壊れないことの説明になっていないわね」
「あ、でも風のソウルコアも魔力があるうちは壊れなかったはずだよ」
「壊そうとしたことが、あるのですか?」
「え、あ……いや、そんなことは……していないよ?」
 サラティさんが、タカヒロさんに睨まれている。目が泳いでいるから、何かしらいたずらをしたのかもしれない。
 その、風のソウルコアは、コマイナ南街の再建されたスワーレイド城に設置されていたはずだ。

『この星のコアは、何者にも破壊できないと言われている。つまり、ダンジョンは星のコアと同じ性質の物質だ、という見解だな。

 そもそも星のコアがどのような物なのか、どういう状態になっているのか、正確に知っている者がおらん。
 仮に魔法で地面に穴を掘ったとしても、五千メートルも掘れればいいとこであろう。その先は、熱くて掘り進めないらしいな』
 星自体が、一つの生き物と捉えてもいいのかもしれない。
 以上、オルフェナ先生の魔法科学の時間でした。



「あ、光が来たよ!」
 妖精コマイナが、台座から飛び上がった。
 外を映し出していた画面が、真っ白に染まっていく。

 ガガッ、キィィィィイイイイン―――。

 障壁に光が当たる音だけが室内に響き渡る。
 スマートフォンを見ると、九時十五分だった。眩しさに思わず手で遮った。

 すっと暗くなり、眩しい光が軽減された。壁に映っている景色は真っ白なままだけれど、室内にいる分には眩しくなくなった。
 そのまま、時間を見ながら光が終息するのを待つ。十五分を越えたところで、光が急速に弱くなっていった。

「これは、眩しいときだけ一時的に光を遮断するように、障壁を調整した方が良さそうですね」
 リメンシャーレが呟いた。うん、生活するならその方がいいと思う。
 見れば国壁と障壁には、傷一つ付いていなかった。

 太陽の焼滅光線は、新生シーオマツモ王国の障壁と国壁を貫くこと無く、そのまま日は昇っていった。
 安堵のため息が漏れた。




「では、キャッスルコアの権能で、土地を再生していきます」
 安全が確認できてからは、行動が早かった。

 まず、ガラス質に焼けた土壌を焼ける前の状態に戻す。リメンシャーレが、改名されてキャッスルコアになった二つのコアに、魔力とイメージを流し込んだ。光が、波紋を描いて地面を伝わっていく。
 地面がふっくらと柔らかく……なっているらしい。魔導城の最上階からだと確認することはできない。

 その後、土壌はダンジョンの管理から切り離した。そうすることにより、耕したり掘り返したりすることができるようになる。
 それと並行して、建物を破壊前と似たような状態まで再建する。

 光の波紋が、魔導城の周りに建っていた雑多な城を、ゆっくりと再建していく。市街地まで広がった波紋は、次々に建物を復元させていった。
 午後の焼滅光線が降り注ぐ頃には、あらかた建ち戻っていた。午前中はまばゆかった光は、予定通りやんわりと遮光されていた。

 夕方には、建物もダンジョンの管理から切り離した。
 一日で、外面上はシーオマツモ王国が再建された。



「まさか、中が空洞なんて想定していなかったよ。道理で早く終わるわけだね」
 メルフェレアーナが、ソファーで真っ赤になっているリメンシャーレの頭をくしゃくしゃとかき回していた。

 そう、再建された全ての建物が、外装だけの張りぼて状態だった。

「だって、母上。いつも魔導城の自室から眺めているか、馬車で移動している車窓からしか見たことなかったのです……」
 脚を抱えて包まったまま、リメンシャーレは小さな声で抗議した。
「わたくしは女王ですから、母上のように世界を旅することができないのですよ? ですから知らない物は、再現できません――」
 リメンシャーレは大声で泣き出してしまった。

「あ、ちょっ、そんなつもりで言ったんじゃないのにな。ごめんシャーレ、わたしが悪かったよ」

 避難した国民を呼び戻す過程で判明した、衝撃の事実だったわけで。最初に聞いたときは、みんなで大笑いしてしまった。
 まさか、自宅のドアを開けたら中ががらんどうなんて、想像しただけでも口元がにやけてくる。

 とはいえ、誰からも苦情は出なかった。
 命があって、外見だけとはいえ住む場所がある。避難していた身としては、感謝こそすれ苦情など恐れ多かった。
 ダンジョン化した恩恵で、城壁内はいつでも春の暖かい陽気が保てるようになっている。屋根と壁さえあれば、後はゆっくりと再建していけばいいだけだ。

 ただ、国民も全員が避難できていたわけではなかった。
 太陽災害で、魔導城に避難が間に合ったのは、国民全体の二割ほどだった。残りの八割は、骨すらも残らず焼滅してしまっていた。
 とはいえ、国の援助もあって、つつがなく復興が進んでいった。




「なつかしいわね、ここで時間を止めたんだっけ」
 再建で賑わう街を、桃華はゆっくりと散歩していた。
 建設資材と、人材の関係で、コマイナはしばらく魔導城の前に待機することになった。

「え、おかあさん。ここ初めて通る道だよ?」
「あらあら、そうだったかしら」
 横を歩く夏梛の指摘に、桃華は優しい笑顔を向けた。

『安心するがいい、今日は我が一緒にいる。危険な目に遭う心配は、しなくてもいいだろう』
 夏梛の腕の中で、オルフェナが自信満々に告げた。結局あの日はゆっくり観光ができなかったのよね。

 金槌の音と、建材を運ぶ荷馬車や荷車で、街が賑わっていた。
 ここではいま、人間族と魔族が一緒に都市を復興していた。シーオマツモ王国は、魔族と同盟を結んでいたとはいえ、それでも人間族の国だった。
 だからあの時、夏梛が攫われた……。
 もう、二度と夏梛を危険な目に合わせないようにしなきゃ――。

「おかあさん?」
「心配しなくても大丈夫よ、もう夏梛に怖い思いはさせないわ」
 自然に口をついて出た言葉。夏梛はオルフェナを放り出して桃華に抱きついた。

「おかあさんっ……」
「どうしたのよ、夏梛?」
「日本に……日本に、帰りたいよ……。うっ、うううっ――」
 桃華はしゃくり上げる夏梛をギュッと抱きしめることしかできなかった。