再びオルフェナに乗って、下道のまま湖畔の道を北へ走っていく。
走りながら、思いの外琵琶湖が大きいことに驚いた。わざわざ遠回りになるのに湖畔沿いの道を北回りで走り、京都市街に入る頃には三時間近く時間が経過していた。
「なぁオルフェナ、なんで北回りだったんだ?」
『桃華がな、お店の開店に合わせるように時間調整しろと言うのでな。せっかくだから、行ったことがない経路を走ってみたのだよ』
「……聞いてないぞ? まあ、いいいけど」
オルフェナはそのまま京都の中心に向かった。そのまま京都の駅にむかうと、慣れた様子で駅前に停車した。
……あれ? 北にある北黎弦神社に向かうんじゃないのか?
「今日は、まず換金してくれるお店に向かうわよ。金貨をそれぞれ百枚ずつ渡すから、それを軍資金にしてちょうだい。いいわね?」
そう言ってから、全員に一袋ずつ金貨が入った袋を配り始めた。最後に袋を受け取ったヒスイが、篤紫を見上げて困ったような雰囲気を出している。
うん確かに、ヒスイが持っていてもしようが無いよね。
「ちなみに、どこに換金してくれるお店があるかは、自分で調べることね。時間が余ったら、先にお買い物を済ませてくれてもいいわよ。
最終的に、ここに正午に集合ね」
桃華はそれだけ言うと、スライドドアを開けてそのままフッと消えた。
「うわ、時間魔法全開でどこかに換金回りに出かけたのか。桃華、本気だな」
「あの……北黎弦神社に向かうのではなかったのですの?」
渡された重い袋を両手で持った状態で、後席にいる紅羽が眉間に皺を寄せていた。
うん、まあ……その気持ちは分からなくもないかな。異能集団の本陣に特攻をかける話で、遙々京都まで移動してきたんだもんね。
それなのに、駅前に着いた途端に一旦解散と。
「まぁ、その辺については後で説明があると思うよ。とりあえず車を降りようか。その袋は重いだろうから、一旦俺が持つよ」
取りあえず篤紫は助手席側から降車する。後席のみんなから金貨袋を回収して、ホルスターのポケットに収納した。
腰元の小さなポケットに次々と消えていく袋に、三人娘が目を見開いて固まったのは、まあ想定内だと思う。
その後で全員が車から降りると、オルフェナが勝手に走って行って、そのまま車の流れに乗って消えていった。それを見た三人娘は、やっぱり顎が外れるほど口を開けていた。
ごめん、何気に俺たちって規格外なんだよな。
自重する気はほぼないけど。
「ど、どういう事やねん。車が勝手に走っていったんやけど」
「そうですよ。それに、そのポケットはどうなっているのですか……!?」
「まあ……色々な」
完全にパニックを起こしている模様。篤紫は思わず苦笑いで濁した。説明すると、かなり長くなりそうだもんな。
そんな中に、小玉羊が駆け寄ってきた。
『待たせたな、なかなか人気の無い路地裏が見つからなくてな。
……ん? どうしたのだ、我の顔に何か付いておるのか?』
「ひ……羊が喋りましたの! ど、どういう事ですの?」
「あー、それ今までみんなが乗っていて、さっき勝手に走って行ったオルフェナな……」
そう言えば、三人とも小玉羊姿のオルフェナを見るのは初めてなんだっけ。
「ほんっとに、どういう事ですの? この可愛い生き物は許せませんの。抱っこしちゃいますの」
「あ、紅羽さんズルいねん」
「それじゃあ私は、ヒスイちゃん抱っこします」
「うわあ、咲良さんも抜け駆けするって酷すぎんで」
紅羽がさっそくオルフェナを抱き上げて、便乗する形で咲良がヒスイを抱っこしている。
抱っこしそびれた瑠美だけが、この世の終わりみたいな顔をしている。そこまでの物なのか、女子の考えることは分からん。
そんな瑠美には、ホルスターのポケットからミュシュのレプリカを取り出してスッと手渡した。手渡したのだけど、何だか微妙な表情をされた。
駄目なのか、メタリックウサギ?
結構人気だったんだけどな。
魔鉄に軽量化をかけて、金属でありながら柔らかいという、ミュシュの特徴をうまく出してある。極めつけは魂儀ネットワークに簡易接続してあって、質問をすると動きながらちゃんと答えてくれる、親切設計にしてあることだ。
あ、ここ魂儀に繋がらないんだっけ……。
しばらく触っていた瑠美は、ミュシュのレプリカが、ただのメタリックなウサギじゃないことに気付いたんだろう。『ほへぇ』などと、女の子にあるまじき声を出して頬を染めていた。
ミュシュの特徴を忠実に再現してあるから、念じるだけで着ている物が変えられたりする。今はタキシードを着ているけれど、イメージ次第で色々な洋服が着せられるわけだ。
まぁミュシュ本人と違って、こっちはたまに魔石を食べさせないと動かなくなるのが難点だけど。
ともあれ、一旦場が落ち着いたので、金貨を換金してくれるお店を探すことにした。
無事金貨を換金することが出来たので、近くの百貨店に足を運んだ。
結局、桃華以外はみんなでまとまって行動することになって、ついでに京都が地元の紅羽に近場のお店を案内して貰った。
「三人とも、それぞれに自分の好きな鞄を買ってもらえないかな。せっかくだから中を拡張しちゃおう」
「拡張って何ですの?」
中を拡張して、実際よりもたくさんの物を入れられるようになる説明をすると、三人が驚いてあんぐりと口を開けていた。確かに、魔法じゃないととてもそんなことはできないからね。
そうしてお目当てのフロアに到着したところで、全員の足が止まった。
「ど、どうなっておりますの。品物がほとんどありませんの……」
「うわ、何や。安い物が残っとるだけやで」
せっかく資金があるからと、高級ブランドが入っているフロアに来たのだけれど、見渡す限り品物がない。あるものと言えば、安い小物くらいのものだ。
店員に顔を向けると、困ったような顔で頭を下げてくる。
安売りでもやっていたのか? それにしては、客がいないようだけれど。
「ちょっと何があったか、店員に聞いてみるか」
「そう……ですね。さすがにこれは、異常な気がします」
「なあ店員の姉さん、品物がないんやけどどうなっとるんや?」
さっそく瑠美が近くの店員を捕まえて聞いている。
結果分かったことが、キャリーバッグを引いた女性が大金を持ってきて、片っ端から買っていったと言うことだった。
「桃華か」
「ええ、桃華さんですの」
「間違いひん、桃華さんや」
「桃華さん、やっぱりすごいですね……」
『ふむ、桃華の爆買いと言うやつだな』
ヒスイすらも、肯定して首を縦に振っている。
まあ、キャリーバッグをひっさげて、資金に物を言わせて買いまくったのだろう。篤紫は小さくため息を漏らした。
こういったブランド品は、デザインが重視されているから実はナナナシアではまず見る機会が無い。
ナナナシアには魔獣がいる。魔獣から採れる素材は非常に丈夫で、素材としての耐久性が非常に高い。ただ、街を一歩出れば魔獣が闊歩している危険地帯が多く、鞄なども実用性第一でしか製造されないのが実情だ。
その点で地球の、特に日本の百貨店ではまずデザインがあって、持っていて美しいかが基準に作られている。もっとも、高級ブランドにおいてはさらに耐久性も求められるけれど。
「桃華が買ったのが、ここだけで済めばいいんだけど……」
「あかんで篤紫さん、それフラグやで」
瑠美に突っ込まれて上の階に行くと、ちょうどそこは靴を売っているフロアだったようで、既に靴がほぼ無かった。ここで売っている靴は、値段が高い物がほとんどで、残っているのは安売りをしている、床置きの箱売り品だけだった。
「ほんとに何もないですの。瑠美さんの言う通りですの」
諦めて他の階に移ると、カジュアルバッグを始め、家電、家具、下着などの衣料品のほとんどが、売り場から綺麗さっぱり消えていた。
「なんて……こった……」
篤紫としても特に買う物は無かったのだけれど、こんなに片っ端から無くなっているなんて、想定すらしていなかった。
恐るべし桃華の爆買い……。
『この様子だと、近隣の百貨店は全滅であろうな。まあ、店側は一日の売り上げが過去最大になるのであろうが。
ところで篤紫達は何を求めておるのだ? 普段必用な物を揃えるだけならば、昔良く行っていたファッションセンターでよいのでないのか?』
「……ん、まあ。普段買えない物を買いたかっただけなんだけどな」
「あの、篤紫さん。もしかしたら専門店街なら、桃華さんも行っていないと思いますの……」
どのみち選択肢はなかったので、少し歩いて専門店街に向かった。その結果、あえて百貨店を外せば桃華の魔の手が及んでいないことが分かって、予定通り買い物を済ませることができた。
そしてちょうどお昼には、集合地点まで戻ってくることができた。